短いにも関わらず、サラサラと波打つ艶やかな黒髪に、彫刻のように整った顔立ち。
陶器のように白い肌、同年代の少年よりも華奢な身体はまるで女の子のよう。
何より目を引くのは瞳。
不思議な紫の眼は無感情にこちらを射抜く。
(“魅了”の魔力があっても驚かないよなぁ)
本気でそんな事を思う。
彼こそ、3年前、腐敗した帝国を下し、新たな国を打ち建てた英雄――ルバロ・マクドールであると、一体誰が見抜けるだろう。
いや、只者ではないと誰もが思うだろうけど。
こんなはかなそうな少年が、解放軍を率いて帝国を打ち倒した、だなんて…想像出来ないだろう。
「何」
俺の視線が気になったのか、抑揚の無い声がぽつりと漏れた。
「いや、相変わらず美少女だなぁと」
反射的に愛想笑いを浮かべからかい口調で本音が漏れた――瞬間。
どすっ。
鳩尾に突き刺さったルバロの棍に、手の速さも健在だと我が身を以て証明した。
「…お前な…鳩尾はヤメロ鳩尾は…昼食ったもんがもんじゃストームとなって復活すんだろーが…」
腹を押さえ抗議する。
「何それ。理解不能なんだけど。僕にわかる言葉を話してくれない?」
冷ややかな瞳と声が即座に抗議を一蹴した。
「このウェットに富んだ素敵ジョークがわからないなんて…相変わらず冗談が通じないな、ルバロ」
「君も相変わらず無駄口が多いね」
付き合いきれないとばかりにルバロが背を向ける。
「あ、こら、まだ話が――」
「あ、あのっ」
引き止めようと言葉を発した俺とほぼ同時に、横にいたマオが声を上げる。
ルバロが立ち止まり、肩越しにこちら――というかマオを見る。
傍から見ても緊張しているのがモロバレな顔…大丈夫かよ、おい…。
心配そうにハラハラと見守るナナミを余所に、マオはルバロへと一歩踏み出し真っすぐルバロを見つめ口を開いた。
「ボクと戦ってください!」
「イヤです」
…会話はものの三秒で終了した。
「…って…おい、マオ。その言い方は誤解を生むだろ…」
思わず力なく突っ込む俺に、マオはきょとんとした顔をこちらに向けた。
「え、誤解???」
「決闘を申し込まれる覚えはない」
冷ややかなルバロの声。
それでやっと己の発言が生む誤解に気付いたのか、マオが叫び声を上げた。
「ええっ、け、決闘!? って、違います、誤解です!!!!」
慌てまくるマオと対照的に、ルバロが再び口を開いた。
「そもそも君、誰」
…………おいおい……。
「…マオ…お前、自分の事ちゃんと説明したんか?」
「…あ!? そういえば名前しか名乗ってない!?」
こんなの頭に据えてこの先大丈夫なのかよ同盟軍。
心に寒風が吹き荒れたような気がした。
「いいだろう」
「ぼぼぼ坊っちゃんんんんんっ!?」
改めてマオが名乗りなおし、協力を要請した処あっさりと承諾するルバロ。
悲鳴を上げ騒ぎだした従者を冷ややかに「煩い」と一蹴。
「おい、ルバロ? お前そんな安易に返事していいのかよ」
自棄になってんじゃないかと口を挟んだ俺に、しかしルバロはマオへと視線を移した。
「ただし条件がいくつかある。一つでも呑めないならこの話はなしだ」
「…どんな条件ですか?」
身を乗り出すマオに、ルバロはにっこりと『笑み』を浮かべた。
「いいお天気ですね!」
足取り軽く進むマオに並び、ルバロは気の無い口調で「ソーダネ。」などと気のない相槌を打っていた。
その二人の背を眺めながら俺…もとい。俺『たち』は鉛のように重い足を引き摺るように歩いていた。
「…なんだあの条件は…」
「というか、承諾する方もする方だ…」
ぼやく大人二人の声が、やけに遠くに聞こえた。
ルバロが出した条件――トランの英雄の名を利用するのは不可だとか、軍事には関わらないとか――それはまあわかる。
当然の措置でルバロの言い分はもっともだ。
気が向かない時は同行を拒否するだの、いきなり帰っても文句は聞かないだの…この辺りもまあ、許容範囲だ。
ルバロは正式な同盟軍ではないのだし、軍主であるマオから協力をお願いしたんだから。
――問題は。
「なんだ。同盟軍の面子を私用に使い放題って…」
「しかも俺たちに拒否権なしってのはなんなんだ…」
誰が使われるか、一目瞭然な気がする条件である。
ちなみに、条件を聞いた時のマオの反応は、
「なぁんだ、そんな事ですか。もちろんオッケーですよ! じゃんじゃん使っちゃってください!」
と、実にあっさりとしたものだった。
…軍師が聞いたら血管切れるんじゃないだろうか。
というか、ルバロ…三年放浪した間に、性格の悪さに磨きがかかってやがる。
保護者同伴だったハズなのに。今度、ルバロに三年間、どこをどのように旅してきたのか聞いてみよう。
時間はたっぷりあるのだし、な。
まあなにはともあれ…。
元解放軍所属の現同盟軍面子は、この先地獄を見るだろう。(主に熊のおっさんとか青い兄さんとか)
【了】
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
以前、携帯サイトにて公開していたものを加筆修正したもの。いきなり書きたくなった英雄イベントネタっつーか、その直後(?)のお話。
一番書きたかったのは熊さんと青二才を殴り倒すトランの英雄サマw 容赦なく急所に入れるところが漢前。
ついでに前篇はマオ(2主)、中篇はルバロ(坊)、後篇はシーナの一人称になっていたんですが…わかりましたかね???
短篇置き場にあるくせに全然短篇じゃない話を書いてすんまそんw