「…それで。何がどうなってこんな事になったのか、私が納得のいく説明をお聞かせ願えますよね」
額に血管浮かび上がらせ、シュウが震える声で問う。
シュウの指す『こんな事』とは──石版のある広間の半壊状態。
実行犯である風使いの魔道士の少年は、顔全面に『不機嫌』を押し出し、そっぽを向いていた。
「ル・ッ・ク・殿・?」
地の底から響くようなシュウの声音に、負けないくらい不機嫌な声音でルックは応対する。
「そこの挽肉予定物が他人様のモノを勝手に持っていこうとしたんだよ」
絶対零度の視線の先には、すでに十分過ぎるほどの切り傷を全身につけた少年忍者のサスケ。
「だから、借りるっつったじゃ──!?」
「黙れ。」
吠えるように言うサスケの言葉は、言い終える事無く未だ不機嫌なルックの一言の元、あえなく撃沈。
こちらの事情はだいたい理解したシュウの視線がフリックを見る。
「チャコが突然、俺のオデッサを掻っ払って逃げたから追った。ちなみに俺は特に何も破壊していないぞ」
頬に一筋の汗を垂らしつつ、フリックが説明する。
チャコがこの本拠地内にていたずらをするのは日常茶飯事。今回もその茶飯事の一つだろう。
問題は――シュウの視線がチャコの横にちょこんと突っ立っているお子様を捉える。
「…トゥエン殿。説明をお願いしたいのですが」
果たして彼に説明させ、それを理解出来るか――シュウの疲れた顔が如実にそう語っていた。
「手紙しゅう読む出来ないちゃこ読むした」
さっそく意味不明の言葉が軍主の口より飛び出した。
「…私が書類で忙しかったので、目安箱の手紙をチャコ殿に読んでもらった、でいいですか?」
数秒の黙考後、シュウの確認の言葉に、トゥエンは嬉しそうにこくこくと頷く。
「指令あるしたしない大変、ふぇーれん呼ぶして指令した」
「…その手紙、見せて頂けますか」
その方がてっとり早いと言う言葉は飲み込みんだシュウに、トゥエンは懐から一枚の紙を取り出しシュウに手渡した。
「…『指令。人数を集め下記のアミダをすべし。制限時間一時間内にアミダにて引き当てたモノを奪い死守せよ。失敗した者はナナミ料理スペシャル三食の刑』」
無表情に読み上げるシュウがいろんな意味で怖い。
「…それで、僕を呼びに来たの…?」
惚けた顔でトゥエンを眺め、フェイレンは呟く。
トゥエンはこっくり頷き、
「ぼくふぇーれん上着引き当てるした!」
と元気に言った。
ちなみに余談だが、アミダにはフェイレンの上着の他『フリックのオデッサ』『ルックのサークレット』『キリィの帽子』『クライブの銃』『ゲンシュウの刀』『ジークフリードの角』『シエラのマント』『シュウのマフラー』『ペシュメルガの鎧』などがあった。
どれも一筋縄ではいかない品物ばかりだ(一部命の危険有り)。
「目安箱の手紙は、どんなに忙しくても私がチェックします。必ず私の元へお持ちください」
引きつった笑みで言うシュウに、素直なお子様軍主は、元気に「うん!」と返事を返した。
「しっかし誰だあ? んな人騒がせなもん投函しやがったばかたれは」
盛大に文句を言うフリックに、シュウは溜め息一つ。
「あいにく無記名ですからね。特定するのは少々難しいです」
見つけたらただではおかんと呟いたシュウの耳に、指令書とやらを覗き込んでいたフェイレンの言葉が届いた。
「…これ…シーナの、字。」
「「「…………。」」」
全員が一斉にシーナを見る。
シーナは今まさに、外へと逃げ出そうとしていた。
「シーナ!!!!!!!!!」
シュウの怒声を合図に、ルックは風の、フリックは雷の紋章の力を解放した。
「トゥエン」
阿鼻叫喚な広間を視界から逸らし、フェイレンはぽけっと成り行きを眺めていたトゥエンに静かに呼び掛ける。
「僕、クラウスさんとジェスさんに説明したその足で帰るから。シーナが生きていたら、服、洗って返すって伝えてね」
そう言い残し、フェイレンは振り向きもせずに階段を登って消えた。
「ああ、そこのガキ忍者。」
ルックとフリックがシーナを半殺しにした後。
バカ正直に実行したトゥエンに面白がって参加したチャコと修行になると参加したサスケの三名は、シュウのお小言たっぷり一時間を食らった。
やっと解放され、さて訓練所にでも行くかと歩き出そうとしたサスケの背に、静かな呼び掛け。
サスケは反射的に振り返り──凍り付いた。
振り返ったサスケの目には、麗しいその顔に満面の笑顔を浮かべたルック。
サスケが笑顔のダメージから回復する間を与えず、彼は笑顔に合わない、冷ややかな声音できっぱりと言った。
「宿星の役目が終了した暁には、予告通り挽肉にしてやるから覚えておけ。」
【了】
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
思いついたまま書き上げた産物。
ちなみになにやらオチに使ってしまったサスケくんですが、他意はありません。
ルック&フッチ好きな方へのサービス(?)
「それで、あの爆発かあ」
苦笑混じりに呟いた少年――フッチという名だった――を一瞥し、ルックは「もう用は終わっただろう」と続けた。
さっさと去れ――といったニュアンスを交えたつもりだったのだが…残念ながら、それを悟った様には見えない。
「ルックが怒るのは無理ないかもしれないけれど…ルックも少し、やりすぎだったと思うよ?」
「殺さなかった」
ルックは事も無げに言い放ち、次いで「僕にしては譲歩した方だ」と続けた。
その言葉を聞き、フッチは――ただ、苦笑しただけだった。
「次は、なるべく壊さないようにね? ジュドさんが大変だから」
そう言って、やっとフッチは去っていった。
(…なんで僕に聞きに来るのさ)
事情なんて、他の奴――それこそ、ジュドにでも聞けばいいのに。
彼は何かとルックに話しかけてくる者の一人だ。
(…まあいいか。タラシほど鬱陶しくはないし)
心の中で呟き、彼は再び瞑想の為目を閉じた――。
【了】
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
たいしたおまけではありませんでしたね。