気紛れMEMO

※ネタバレ(FGOの最終再臨画像など)一切配慮せず。見たくない人は自衛でよろ(゚▽゚)ノ たまに幻水の小説など投げています。転載禁止。

【幻水1】幸せの定義【短編】

「なあ。お前にとって『幸せ』って何?」

 突然の、テッドのヒトコト。

「…どうしたの、テッド」

 あまりに脈絡のない問いに、フェイレンはまじまじとテッドの顔を覗き込む。

「いや、別に深いイミはないって」

 対し、テッドはいつもと変わらぬ笑みを返す。

「で?」

「…いきなりそんな事言われても…」

 重ねて問い掛けてくるテッドに、フェイレンは首を小さく傾げて考え込む。

「そんな考え込まずにさ、ぱっと思った事を言えばいいんだって。別に論争しようってんじゃないんだから」

 真剣に考え込むフェイレンが可笑しくて、テッドはフェイレンの肩を叩きながら笑う。

「ほんと、フェイレンはイイ意味でもワルイ意味でも思考に填まり込むよな」

「そういうテッドはどう…なのさ」

 些か気分を害したらしく、微かに頬を膨らませフェイレンが問う。そんなフェイレンに、テッドは含み笑いを洩らしながら「フェイレンが答えたら教えてやるよ」と答えた。

「…なんか…ずるい。それ」

 上目遣いにテッドを睨むフェイレンに、テッドの笑みが深くなる。

「いいからいいから、ほら!」

 テッドに急かされ、フェイレンは釈然としないまま再び考える。


 幸せ。運命の巡り合わせ。その人にとって、幸運――幸福――であること。

 幸運。物事が偶然に自分にとって都合のいいように運ぶこと。またはその様子。

 幸福――現在の環境に十分に満足出来て、あえてそれ以上を望もうという気持ちを起こさないこと。また、その状態。しあわせ。

 単語の意味を思い浮べ、考える。『僕』の幸せ? 幸運――幸福――現在の環境…それ以上…?

 それ以上って、なんだろう? 望もうという気持ち…望み…? 願い? 僕の、願い…。










「……いま」










 しばらくの思考のち、ぽつりとフェイレンが呟いた。

「へ?」

 思わず間の抜けた呟きを洩らすテッドに、フェイレンは眉間に眉根を寄せ、躊躇いながら再び口を開く。

「えっと…だから、現在[イマ]…ってのは…答えに、ならない?」

「……」

 ――沈黙。

「…俺、『幸せ』について聞いた…よな?」

「うん」

「で、答えが…今?」

「…うん」

「なにそれ。」

 テッドは両手を顔の横にまで挙げる。説明を求める時の合図だ。

 フェイレンは首を傾げ「笑わない?」と問い掛けるとテッドは即座に頷き、「笑ったら今日のグレミオさんのシチューは諦める」と笑った。

 つられて笑いながら、フェイレンはゆっくりと口を開いた。

「…父さんがいて、グレミオがいて、クレオがいて、パーンがいて…テッドがいて。
 一緒にゴハン食べたり、他愛ないおしゃべりしたり、たまにケンカしたり、でもすぐ仲直りして。
 晴れた日には土いじりしたり、散歩したり…そんな『当たり前の日常』。道で会ったら『こんにちは』って挨拶して、別れる時には『またね』…そんな変わらない毎日が、僕の『幸せ』…だよ」

 説明を終え、フェイレンが黙り込む。

 反応のないテッドの顔をフェイレンが恐る恐る覗き込むと、テッドはスイッと視線を壁の方へ向け、ぽつりと「…じじくせ。」と呟いた。

「なっ! なんだよ、笑わないって…!」

「いや、笑ってはいないし。うん、笑ってない」

 言いながら、身体ごと壁に向き直るテッドの背に、「…うそつき」と言うフェイレンの不機嫌な呟きが響いた。

 その呟きを聞きながら、テッドはフェイレンの奥深さ、底知れなさを改めて実感し、感嘆の念を抱いていた。

(たかだか十年とちょっと。それしか生きていないくせに…)

 何故。

 こうも自分の言いたいことを先んじるのだろうか。

(『土いじりしている時が一番幸せ』とか言ったら思いっきり笑ってやろうと思ったのに)

 驚きが過ぎた後は、嬉しさが込み上げてきて。

(コイツならきっと…)

 俺の事。

 俺が持つ、生と死を司る紋章の事。

 きっと、『関係ない』と笑ってくれる。

 すべてを知ったとしても――きっと、自分を『親友だ』と、変わらぬ笑みを浮かべてくれる。

 ――確信。

(…ま、話す気はないけれどな)

 それでも。救いはあったのだと思える。

 自分の、永遠にも思える永い孤独の刻に。

 ここに辿り着いた事を、諦めずにここまで歩き続けた事に、誇りを持てる――力に、なる。

「…それで、テッドの『幸せ』は?」

 未だ不機嫌継続中らしく、微妙に固い声で問い掛けてくるフェイレンに、テッドは満面の笑みで振り返る。

「教えない!」

 と言った――瞬間。

 テッドの答えを予期していたのか、絶妙のタイミングで枕が飛来しテッドの顔面にヒットした。

「ってぇな! 何す――」

 テッドの非難の声は、フェイレンの冷ややかな目に撃墜され最後まで紡がれなかった。

「…おおうそつき」

 心底いじけたフェイレンの言葉付きで。

 テッドは頭を掻きながら、決まりの悪そうにそっぽを向き、「…ガキ。」と呟いた。

 ――そして始まる子どもの口喧嘩。

 マクドール家は今日も概ね平和だった。



 【了】

 

 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

幻想水滸伝1が始まるより、少しだけ前のお話。メイン坊とテッドのほのぼの日常のひとコマ。

元はサイトの拍手か何かに公開していた…気がします(忘却)