トゥエンに遅れること数分。階段を駆け上がったフェイレンとシーナは辺りを見回す――が、トェエンの姿はすでになし。
「…困ったな、どっちに行ったんだろう…」
騒ぎを聞きつけたらしい数人がこちらに注目していた。
「なあ、トゥエン見なかったか?」
付いてきたシーナが近くにいたクラウスを捕まえ問い掛ける。
「トゥエン殿でしたら、そちらの横手から劇場の方へ行きましたが…」
「シーナはともかく、フェイレン殿? なんです、その格好は?」
共にいたジェスが眉を潜め問い掛ける。
「え、あの、これは、その」
「俺はともかくってなんだ──って、そんな事言ってる場合じゃない、フェイレン、劇場の方だ」
困ったように口の中でもごもごと言うフェイレンを、ジェスに言い返しかけたシーナが引っ張っていく。
「ご、ごめんなさい、後で説明します」
シーナに引っ張られながらフェイレンは律儀に二人に向かいそう言った。
『…はあ』
後で説明すると言った以上、律儀な隣国の英雄は本当に後で説明に来るのだろう。
二人はとりあえず納得すると、軍師シュウの元へ行く為階段を上がっていった。
「フェイレン? なんだ、その格好」
劇場に入った瞬間、フリックの素っ頓狂な声に出迎えられる。
「説明は後。トゥエン来なかったか?」
口を開き掛けたフェイレンを遮って、シーナが問う。
「トゥエンならレストランの──」
「なんだぁ? なんでシーナの上着なんて着てるんだ?」
フリックの声に重なるようにビクトール。
「レストランね、サンキュ」
ビクトールを完全無視してシーナはフェイレンを引っ張り劇場を抜けていく。
「レストランに入ったら袋のネズミだから、きっとレストランには入らず階段下って行ったと思う」
劇場を抜け、手摺りを飛び越え階下へ降りながらシーナがここに不慣れなフェイレンに説明する。
「レストランに隠れてる可能性もある…んじゃない、かな?」
シーナに続き、階段の手摺りを越えながらフェイレンが問えば、即座にシーナが「それはない」と否定した。
「レストランはつい先日遊び場にしてシュウに怒られたばっかだからな。食事以外でレストランには入らないさ」
「…………」
色々言いたいことはあったが、とりあえず今は納得しておいた。
二人はレストランを抜け階段を下り、風呂前まで来る。
「テツさん! トゥエン知らない!?」
風呂場の入り口に陣取っている、風呂職人のテツにシーナが声をかける。
「軍主の坊主なら、なんかひらひらした布持って、店が並ぶ通りの方に飛び出してったぞ」
テツに礼を言い、『ひらひらした』などと形容され眉を潜めているフェイレンの手を引き外へ飛び出す。
「…ひらひら…してる、かなぁ…」
などとボケたことを呟いているフェイレンはとりあえず黙殺し、階段を下りる手間を惜しみ段落を一足飛びで越え外へと飛び出した所で、走るトゥエンの背中を発見した。
「いた!」
シーナの呟きが耳に入ったか、トゥエンが微かに後ろを振り返り、慌ててスピードを上げる。
「こら待て!?」
「トゥエン!」
シーナとフェイレンも走り出す。
「トゥエン、服返してっ」
「後返す貸して!」
「えぇっ、こ、困るよっ」
「返すぼく困る!」
「僕も困るよぉっ」
「…………」
走りながら器用に会話する二人に、シーナは間の抜けた会話だと思いながら、何故自分は彼らに付き合い走っているのかを自問した。
鍛冶屋、防具屋、札作りに紋章屋と抜け、交易所、鑑定屋の前を抜けた所で――誰がの怒声が響いた。
「え?」「う?」「は?」
フェイレン、トゥエン、シーナの三人が同時に呟きを漏らし正面を向いた──その時。
「へ?」
そんな呟きと同時に、チャコが横手から飛び出してくる!
「ひゃう!?」
気付いたトゥエンが反射的に減速するが間に合わず──
どしんっ!
激突、当然転倒。
チャンスとばかりにフェイレンとシーナがトゥエンを捕まえる。と、同時に、チャコが飛び出してきた横手からフリックが飛び出しチャコを捕獲した。
「こんの悪ガキ! 俺のオデッサ返せ!!!」
フリックの怒声に、改めてチャコを見てみれば、確かに鞘に収められた刀剣を抱えていた。
「一体、何やってんだ、お前ら──」
ずんっ!
『…………』
全員が音の発信源に視線を移す──広間らしき場所から、煙が上がっていた。
.