「Trick or treat?」
やたら楽しげな、弾んだ声に、ゲドは怪訝な顔で振り向いた。
…妙な物体が、いた。
「…何をしている、ハヤテ」
とりあえず、問い掛けてみる。
ハヤテは笑顔のまま、もう一度繰り返した。
「Trick or treat♪」
「…その装いは、一体どこで調達した」
ハヤテの頭のてっぺんから足の爪先まで、ゆっくりと眺めながらゲドが問う。
頭に生やした茶色の耳。
ズボンの尻からは耳と同色の尻尾が垂れ下がり、肉球付きの獣の手足を型取ったらしい手袋と靴。
黒のランニングシャツには妙なかぼちゃのアップリケが付いていた。
取り合おうとしないゲドに、ハヤテはつまらなそうに眉根を寄せ答えた。
「サナが作った」
「……。」
作らせたハヤテを叱るべきか、作ったサナを責めるべきか。一瞬本気で悩むゲド。
「今日はハロウィンなんだぞ? 郷に入っては郷に従えと言うだろう。つーワケでお前の分だ♪」
言って何やら黒い服を差し出すハヤテに、ゲドはゆっくりと右手を掲げた。
「我が身に宿りし真なる雷の紋章よ…」
詠唱しだしたゲドに、ハヤテが慌てて距離を取る。
「おいこら! 何のマネだ!?」
「お前らがお祭り騒ぎをするのは勝手だ、だが俺を巻き込むな!」
「ばっか、お前、こーゆーのはみんなでやった方が楽しいだろうが! つーかお前はお菓子くれなかったから悪戯っつー事で大人しくこれ着ろ!!」
「どんな理屈だ!?」
「ったく…またあの二人か…」
ぎゃいぎゃいと微妙に同レベルな口喧嘩をする二人を眺めながら、ワイアットは苦笑混じりに呟いた。
「いいコンビよね、あの二人」
同じように眺めながら、サナが呟き――ちらり、とワイアットに視線を向けながらにっこりと笑顔を浮かべ続ける。
「で。ワイアットは無論着てくれるわよね?」
「…拒否権は?」
「あら、私がわざわざ作った服を着れないなんて言うの?」
深まった笑みに、ワイアットは身の危険を感じ、即座に承諾。
ワイアットの承諾を得、サナは満足気に微笑むと未だ言う争うゲドへとゆっくりと近づいていく。
「…似たもの夫婦…」
その背を見送りながら、ワイアットはぼそり、と呟いた。
【了】
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
数年前、携帯サイトの拍手にて御礼文として公開。
サナ最強。
運び手内にてハヤテ(炎)は悪戯実行犯、サナは教唆、ゲドは説教係で宥めるのはワイアットです。たまにワイアットも炎と一緒に実行犯になったりもします。ゲド一人貧乏くじw