「なあ、ルバロ。外出しないか?」
「いいよ」
…………。
毎度の台詞を口にした俺に、しかしルバロはいつもと違う返事を返した。
「ルバロ…具合でも悪いのか?」
「具合悪いって言ったら素直に帰るの?」
「いや帰らねぇ」
微かに眉を潜め、「何それ」と小さく呟くルバロ。
「って、そうじゃなくて。…今日はやけにあっさり頷いたな」
疑問を口にすれば、アッサリと
「どうせ結果は同じだし、メンドーを省いただけ」
と言われた。
…否定は出来ないよな。俺は毎回、こいつが了承するまで横にへばりついて読書の邪魔してるし。
いや、それにしたってもう少し言い方っつーかなんつーか…だいたい、こいつには若さがない。子どもは元気に外で遊べっての。
「ほら、どこ行くんだか知らないけどさっさと行ってさっさと帰るよ」
外出着に着替えながらルバロが急かしてくる。
って…さっさと帰る?
…ああ、そーゆー事か。このガキ。
そっちがその気なら、俺にだって考えがある。
「今日はさ、少し遠出しようぜ」
「イヤです」
即答しやがった。
しかし、その程度で引き下がるテッド様ではない!
「すっげぇ景色が綺麗で、もう絶好のお茶タイムが楽しめる場所があるんだ。グレミオさんに言って、弁当作ってもらおう!」
無視してやった。
「ちょっと、人の話」
「そうと決まればさっそくグレミオさんに弁当作ってもらわないとな!」
早足に部屋を出て、グレミオさんがいるであろう厨房へと足を向ける。
「テッ…はあ…」
言っても無駄と悟ったらしいルバロの諦めの溜め息が聞こえた。
――勝った。
優越感と勝利の達成感を感じつつ、「俺に勝とうなんて三百年早い」、と心で呟く。
永い時を経て、やっと辿り着いた安息。
それが長く続かないと、わかっている――幸せな時は、あっという間だって。
だから、もうしばらく…もうしばらくは、俺に付き合ってくれよな、ルバロ。
【了】
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
数年前、携帯サイトの拍手にて御礼文として公開。
『日常ノ風景』の次の日くらいの話。
大きな秘密を抱えながら、日々を生きていたテッド…彼は一体、どれほどの罪悪感や重圧を感じていたんでしょう。